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引き上げ品等、放り込み倉庫
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《女性向け》 ハッピーバースディ、一個下の続き。


 







すっかり暗くなった時刻。

愛車の中で寒さに身体を縮こまらせているかと思いきや、金髪の相棒はすっかりお疲れのご様子で熟睡している。前日の夜更かしに加えて、蛮の奇行の制で結局夜明け近くまで眠れずに一人で悩んでいたし、昼間は昼間でしっかり呼び込み、夕方からは馴染みの喫茶店に呼びつけたかつての仲間達と、蛮の誕生日と称して大騒ぎ。
何でも騒ぎたがる銀次だったが、特に今日のハメの外し方は尋常ではなかった。無理をしていると言う意味ではないので、蛮も手放しで喜ぶ銀次をコントロールする気になれず、結局、一番最初に酔い潰れた銀次を積んでいつもの公園に帰ったのは、まだ宵の口。
主役を失ったはずのあの店では、まだ宴会騒ぎで盛り上がっている最中だろうか。

助手席で気持ち良さそうに寝息をたてる銀次を横目で眺めながら、蛮はポケットから煙草のケースを取り出す。
昨日――今日の日付とともに、相棒から贈られたプレゼント。
たかだか320円の自動販売機でも買える、たったこの一箱のために、銀次がどれほどの苦労をしたのかは想像に難くない。
外装のセロファンを指先で撫でて裏返すと、油性マジックで書かれた、『ばんちゃん これからも ずっとなかよくしてください』
の文字が躍っている。
字を習い始めたばかりの銀次には小さな文字は難しいのか、下手糞な上に震えてしまってそれを文字と呼ぶことは難しい。むしろ、記号か暗号に見える。

けれど蛮は、一言一句としてそれを取り間違えたことはない。

「年賀状かっつーんだよ……
 開けらんねえじゃねぇか、バカ銀次」
それでも悪態を呟く表情は柔和に崩れていて、その緩んだ口元に、煙草の箱を押し当てる。メッセージがなくても、きっとセロファンを解く事はできないと自覚しているけれども。

小さな音を立てて煙草から唇を離したその時、突如伸びてきた手に腕を掴まれて、蛮は危うくケースを取り落とすところだった。
「……!」
あまりの唐突さに蛮の判断が鈍った隙を突いて、助手席からのそりと身体を割り込ませてきたのは銀次だった。

「………お、前」

正確には、銀次ではない。纏う空気に銀次独特の柔らかさはなく、昏い光を宿す眼差しの鋭さは、希薄な感情そのものを表している、『雷帝』。
いつの間にかシートは倒されていて、気付けば身体の上に圧し掛かられて、蛮のサングラスもあっと言う間に取り払われる。そして、全てに対して緩慢な反応を見せる蛮の瞳を真上から覗き込み、視線が合ったその瞬間にはもう接吻けられていた。

「ぅ………っ、ん」

蛮の抵抗を防ぐように腰と肩を強く抱き締めていると言うのに、雷帝のこの頼りない熱っぽさは何だろうかと、瞳を閉じる前に見た泣きそうな表情を思い浮かべる。
強引に荒っぽく探る舌の熱さとは裏腹に、触れている唇は今にも引き剥がされそうなほどに儚く、舌を絡めて接吻けに応じると震えて引き退がる。そのくせ、逃げることを許さない力で繋ぎ止めようとする矛盾が子どもの我儘を彷彿とさせたので、雷帝の背中に腕を回して抱きとめることで、抵抗を放棄したことを示してやった。
ゆっくりと力の抜けた腕が恐る恐る頬に触れ、労わる仕草で撫でられた時には口づけは終わり、気付けば熱心に見下ろしてくる瞳の中には自分の姿しか映っていないことに、蛮は微苦笑を漏らす。同じ身体を使っているのに、頬に触れる指先は銀次のそれとは全く違う。

「………蛮、ちゃん」
頬に添えているのとは反対の手で蛮の目にかかる前髪を撫で分け、かたちの良い額、瞼、鼻先、頬、顎の順に口付けて、最後に唇に触れるだけのキスを送り、「誕生日、おめでとう」と呟いた。
「お前、もしかしてそれ言うためだけに出てきたのか?」
「………どうしても、今日中に言いたかった、から……」
間に合ったことに安心したのか、満足げに緩む口元の微笑が、情感の薄い雷帝の心からの言葉を表している。蛮はうずうずと気持ちが高揚するのを感じながら、意地悪く瞳を細めた。
――そんで? 何かくれんのか?」
さすがの雷帝も、蛮の言葉には考え込む。感覚で喋る銀次とは違い、もともと雷帝はひとの言葉を丁寧に理解して慎重に応える。普段より時間をかけて黙り込む雷帝の思案顔を、蛮も黙って眺めていた。何をくれるのかではなく、何と返ってくるのかを楽しみに。

「俺」
「……?」

「俺が持ってるのは、俺だけだから、俺の全部を蛮ちゃんに」

雷帝の言葉でなければ冗談にしか聞こえないような、最高の口説き文句を意図せず引き出せたことに震え上がるような快感を感じて、蛮は雷帝の首に絡ませた腕に力を込めて抱き寄せる。

「それは、お前が役得なんじゃねーの?」
呆れたように指摘すると、再び長い沈黙の後に、雷帝はその体躯からは想像できないほど小さな声で「ゴメン」と呟いた。
「バーカ、本気にしてんな」
蛮はくすりと笑って、抱き込んだ額に可愛い音を立てて口付ける。甘え下手な雷帝がどうしたら良いのか戸惑っている隙に、柔らかな耳たぶに口付けて短く囁いた。

「残り二時間。目一杯、祝えよ」
「………………」

「――くれんだろ?」


蒼い瞳の奥に潜んだ誘惑に逆らえず、優美な笑みを浮かべて強請る唇に接吻けを与える。そして、気の遠くなるほど甘いキスの合間合間に雷帝に囁かれた「おめでとう」の言葉は、たった二時間ながら、それまでの十数年間を覆すほどの数に上ることになるのだった。

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