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引き上げ品等、放り込み倉庫
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なんとなく思いついたので誕生日おめ北テル。





「お誕生日おめでとうございます!」

いちいち子どもに言い聞かせる丁寧さで、彼は真っすぐに北見を見つめ上げて言祝ぐ。それこそ一大事だと言わんばかりの情熱とともに。
たかだか一つ年をとった程度の話。かつては元日を以て一歳と数えたような曖昧な境界線だのに。北見は毎年振り掛けられるそれらをあまり真面目に受け取ろうとしなかったし、テルに限って言えばひどく煩わしく感じていた。
あの陽気な笑顔を充足で満たして、いっそ自分が祝われているかのごとく勝手に喜ぶのだ。北見にはそれが不可解で仕方なかったし、そう言うテンションのテルに関わる気力の方がずっと惜しかった。

たった一年に一度、年をとると言うだけの日。
けれどこの連れ合いは、毎年それを待ち遠しそうにしている。ひと月も前から北見に注意を促し、望みをと迫る。籍を入れるに至っては、日付が代わる瞬間をともに過ごしたがった。
そうして、一年、また一年と同じ日を過ごすうち、北見の内側には諦めにも似た密やかな感情が芽生え、先ほどからそわそわと落ち着かない連れ合いを観察する喜びを見出すに至った。

頬を紅潮させて時計の秒針と頷きをともにする。
何がそんなに楽しいのかと聞いたことがあった。ただ「北見が生まれた日だから」と、むしろなぜその楽しさが分からないのかと言いたげに首を傾げて見せる連れ合いに、ただ間抜けに「そうか」としか返せなかった。

この世界で自分の誕生をこれほどに感謝してくれる存在がいる。
それがただ一人の自分の伴侶と言う、当たり前の奇跡。愛されている、と、むず痒さを伴った喜びが北見の内を焦がす。

もうあと20秒もしないうちに、この一年で最も輝く笑顔を浮かべたテルが馬鹿みたいな声量で告げるのだ。子どもに言い聞かせる丁寧さで。抑えきれない喜びをはち切れさせながら。
そして北見はその瞬間、この世の全ての誰よりも何よりも幸福な男になれるのだ。

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