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引き上げ品等、放り込み倉庫
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双子。桜の季節に。










意識が堕ちる。

引きずり込まれるような眠気に、もうそろそろ我慢も限界に達してきた。
いや、 堕ちる、と言う表現は適当ではない。 
守護獣にとって、存在を固定する寝殿は、そもそも彼らの意思には当てはまらない。
寝殿の維持は、例えばヒトが呼吸をするようなもので、それは守護獣が存在する限り同様に存在する。ふとした瞬間に、意識から無意識への移行に滑り込んだとしても、ゼファーの寝殿は、存在している。
 
皙い寝殿に直に腰を下ろして、ゼファーは上体を保ったまま首を擡げて眠気を堪えていた。
もうしばらくも待てばその我慢も無為に消えるが、時間を惜しむ彼にとって、それはあまりにも儚いものだろう。
 
そうして、次第に無意識に意識を滑り込ませ始めた竜王の視界に、 はらりはらり、と。
淡い色を乗せた数枚の花びらが。

ゼファーの、眠気の混じった紅い瞳をからかうように舞い込むその姿は優雅で、微笑むような柔らかな動きで膝にたどり着く。
一瞬で意識が覚醒したゼファーは、薄桃色の花びらをひとひらつまみ上げた。そうする間にも次から次へと花びらは舞い降りて、ゼファーの膝の上や寝殿の床に、細やかな華やぎを加える。
頬を緩めたゼファーは、そのままの表情で上空を見上げた。

「ルシエド」
 
自分の後ろに立つ弟は、彼の声に、花びらを撒く手をひとまず止めた。背の高いルシエドがどんな顔をしているのか、ゼファーには見えなかったが、よぉ、と応じた声は気さくな風だったから、愉快そうな顔をしているのだろう。
はらりと、また数枚の花びらが舞い始める。手の平で受け止めたゼファーは、それを大切なもののように両手で包み込み、祈るような仕草で口許に寄せた。
 
「今のファルガイアは、ちょうどこんな風だ」
「綺麗?」

「お前が喜ぶほどには」
「今だって、こんなに綺麗だ」

「そうか?」
うん、と笑う瞳に、ひらりと花びらが映る。

この瞳に、あの花吹雪を見せてやれたなら。

「こんなに綺麗」
呟くゼファーの声が、いつまでも胸に残った。

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