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引き上げ品等、放り込み倉庫
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祖父孫。日常会話。








「………わっ!」
扉を開けた瞬間、弾けるように叩きつけて来た風に、ロディは思わず身を竦ませた。反射的にノブから手を離してしまったので、扉は風の抵抗を受けながら、かなり大きな音を立てて閉じた。

「ロディ?」
聞きつけたゼペットは会計を済ませ、慌てて孫へと駆け寄る。

「風が強いよ~、じいちゃん」
「目に入ってないか、砂とか?」
「ん。大丈夫、でも凄いよー」
見上げる蜂蜜色の瞳に笑い返して、孫と扉の間に身を割り込ませたその動きが、それはごく自然だったので、ロディは気付かないままだった。
数週間逗留していた、小さな村の小さな宿から、さあ発とうかと言う時でも、彼らは普段と変わらない。
雑貨屋を後にするのと同じく、部屋から廊下に出るのと同じく、扉を開けるのだ。

激しい風鳴りと共に扉は開いたが、その激しさもすぐに緩んだ。
「世話になったな、また来るよ」
ロディの背中に支えるように手を添えた祖父は、後ろに声を投げる。宿の亭主の社交辞令に笑って手を振って寄越し、ゼペットはロディと連れ立って宿屋を出た。

「今日強いねー風。嵐が来るのかなー?」
じいちゃん大丈夫? と、瞼の上に両手で日差しを作るロディに、ゼペットは笑った。

 「大丈夫さ」

笑みに細まる紺色の瞳が、前方に注がれていたから、ロディも自然そちらに視線を向けると、そこに居たのは一羽の鉄の鶏。
勇ましさよりは親しみやすさのこもった黒金の風見鶏が、吹き付ける風をその身に一身に受けて。

「今日の風は西風だから」

「…………?
 西風だと、良いの?」

風で瞳にかかる前髪を抑えるロディが可笑しかったのか、ゼペットはぽんぽんと孫の頭を撫でた。
ロディは、祖父以外の大人がそんな風に微笑む態を見た事がなかったが、ゼペットは実に面白そうに、悪戯っぽく笑う。
それはちょうどロディほどの年齢頃の子供がよく見せる、向こう見ずな不敵な笑顔に似ていたから、祖父がこんな表情を見せる時は、よくよく嬉しい事がある時なのだと知っていた。

「西風はさ、ロディ。
 昔っから、追い風より優しい風って言われてるんだ」
「追い風より……って、何それ?」
ロディの上着の襟が、内側に折れ込んでいたのを見つけて、ゼペットは襟を直してやる。


「西風は竜王の息吹。
 すべからく、明日に吹く風、ってな」


「…………………」

ウインクしてみせる祖父に、ロディは複雑な眼差しを向けた。
しばらくの間、何とも言えないような表情を浮かべて沈黙していたが、やがて不服そうに眉根を寄せて呟く。

「よく分かんない」

ゼペットは声を上げて、それは爆笑していた。
抗議する気も起きなかったのか、ロディは、祖父のバカ笑いが収まるまでの間、屋根の上の鶏の、はるか西の彼方を示す黒金の嘴を、ぼんやりと見上げていたのだった…………

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