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引き上げ品等、放り込み倉庫
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少し緩めな双子。



 







予てから、言おう言おうと思っていた言葉があった。
言う機会がなかったのは、自分がそれを思い出した時の相手が、話を聞く態勢ではなかったからだ。いつも眠っている相手に囁いた文句など、まかり間違って睦言に取られてしまっては目も当てられない。どの道、聞く耳があったとて、忠言を心に留めるとは思い難い相手だけに、その言葉はせめて効果的な場面で言わなければ意味がない。そう考えていたからだ。

「俺をアスレチックか何かと勘違いしてないか?」
「うん?」
今日も今日とて、胡坐を掻いて座っているルシエドににじり寄り、咎められないのを良いことに、その肩によじよじとよじ登っている、小さなゼファーの姿。

習慣、いや。最早様式美とでも言うか。
そんなどうしようもない平和で当たり前な光景にも、ルシエドは不満があったらしい。

「お前には分かるまい。
 お前がよじ登ってくる時、まるでジャングルジムにでも
 なったような俺の気持ちが」

少しだけ演技がかった身振りをつけてやると、ルシエドの肩に腰を下ろしたところで動きを止めたゼファーは、弟の不満そうな顔を見下ろして、素直にうんと頷いた。
そもそも、その何とやらジムさんも知らないゼファーに、その気持ちを理解しろと言う方がおかしい。普段ならばそれで終わりそうなものだが、珍しくゼファーは微笑んだ。ゆるりと、頬の筋肉を緩める程度の変化にも、ルシエドならば気付く。
兄は、ルシエドの肩についた右手でわが身を支えながら、左手の人差し指で、自らの額を指し示した。
すると、間を置かずに淡い発光に包まれたゼファーは、光が消えた後にその姿を青年へと変じていた。

「こちらの姿では出来ないもの」
その姿で、ようやくにこりと紅い眼差しが緩められる。
ルシエドの肩に、やはり腰を下ろしている青年は、先ほどより高い位置から弟の顔を見下ろした。

「………」

さらりと揺れる長い髪が、ゼファーの足元を支えているルシエドの指に触れる。 
 

溜息を一つ。
ルシエドは吐いて、ゼファーの両脇に手を差し入れる。
ひょいと、軽い身体を持ち上げて、自分の肩から下ろし、膝の上に座らせた。
首を傾げて、見つめてくる柔和なゼファーの表情に、ふっと笑みを漏らして抱き締める。

柔らかな質感を確かめるように、ゼファーの肩口に顔を埋めて、触れる髪の感触を楽しんだ。
そっと、僅かな力でゼファーが抱き締め返してくれるのが、ささやかながら心を和らげる。


「そっちなら、この方が良いな………」


囁くような独り言には、ゼファーはそうだと頷いて返した。

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