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引き上げ品等、放り込み倉庫
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【女性向け】 奪還屋・銀蛮。100題の時に書いたやつ。
前の蛮誕とネタかぶりしてるからどうしようかと思ったけど、まあここサルベだしね!
 


麗らかな午後。

目一杯の穏やかな陽光が風を柔らかいものに変えて、空気そのものを微睡ませているような日。
公園の端に停めた愛車で、奪還屋の二人はごろごろと過ごしていた。

こんな日は、仕事する気が起こらない、と眠気を引き摺った蛮曰く、じゃあ今日はテンキュービだね! と、そんな余裕もないことを知ってはいるが、いまいち危機感の沸かない銀次が笑顔で応えて今に至る。

「蛮ちゃん蛮ちゃん」
その日の浮かれ陽気は、気候だけではなく、助手席の相棒にも何やら影響を及ぼしているらしい。面倒だからと寝た振りをしても、こういう時の銀次のしつこさを知っている蛮は、無視する方が面倒になることも心得ていた。
「あー?」
正直、口を開くと言うか、もはや喉を震わせるのすら億劫だった。だからどんなバカなことを言われても、今なら類を見ない寛大さで許してやれる。

そう思っていた。

「蛮ちゃん、あのね。知ってる?
 ちゅーには、色んな種類があるんだよ」

ちゅーと来たか。
蛮は温まった思考でぼんやりと考える。

そう言えば昨日、ホンキートンクに寄った時に、夏美と何かの話で盛り上がっていた。あの二人は、精神年齢が同じ上に(いや、銀次の方が下か?)性格や気性が良く似ているから、あの店に行くと、自分が波児やヘヴンと話す以上に銀次は夏美と喋っている。
蛮はそれを聞いている時もあったが、専ら、波児やヘヴンとの実のあるようなないような会話の方に熱心だった。

「恋人のちゅーとか、夫婦のちゅーとか、
 家族のちゅーもあるんだけどね。
 友達の間でもちゅーがあるんだよ」
言葉尻の強調から、銀次がぐっと両拳を握りこんだのが分かった。

「ふーん」
「だからね蛮ちゃん!
 オレと蛮ちゃんのちゅーってどんなのか教えて !!!?」
「なんだそりゃ!」

流石に悲鳴を上げつつ、シートに寝そべっていた身体を起こした蛮に、銀次はきょとんとそのはしばみ色瞳を瞬かせた。
「だって蛮ちゃん。
 オレ達、奪還屋のチームで、相棒で、大親友なんだよ?
 ちゅーするの当然じゃない」
「んじゃオマエ、猿マワシや絃巻きどもとしてたんか?」
「それ知ってたらしてた!」
「寒ム!」
「ねー、ちゅーしてー。
 オレと蛮ちゃんのちゅー。教えてよー」

最終的には蛮の袖を掴んで引っ張り出す。

銀次の我侭は、自分のそれとはまた違う意味で始末に負えない。そして我侭よりも、直接蛮に実害を及ぼすお強請りは、恐らく銀次の必殺技だ。蛮はそう感じている。
「ねー蛮ちゃん、ちゅー」
しつこい声に、蛮は静かに目を閉じる。観念したわけではない。
銀次も明確な応えがない間は、声を上げて蛮の身体を揺さぶり続ける。その上で、胸の前で両手を組み、瞳を閉じて期待に満ちた感情を、「んー」とか漏らして唇を突き出すことで表す。

「…………」
「さあ蛮ちゃん。エンリョしないでいいから、ちゅー」

にゅっと、突き出された唇が更に伸びてきた気がした蛮は、何を思ったか、ふと身を捩って後部座席の乱雑な生活用具を漁り始める。

「………ナニしてんの、蛮ちゃん?」
がさごそと聞こえてきた音に、焦れたと言うよりは不思議そうに目を開けた銀次の言葉に、蛮は手を休めずに素っ気無く告げる。
「洗濯ばさみどこ行った?」
「洗濯ばさみ? こっちじゃない?」
言いながら、蛮が探しているのとは反対側に手を突っ込んだ銀次の手は上手に探し物を探り当て、洗濯ばさみを蛮に手渡す。
「お。サンキュ」
「うん。探し物見つかったんなら、続きしよ。
 んーーーー」
と、忘れられてなるものかと、矢継ぎ早に再び突き出された銀次の唇を、蛮は無表情で洗濯ばさみで摘み上げた。

「んむーーーーーっ !!!!!」

飛び上がらん勢いで驚いた銀次は、即座に激しく頭を振り乱して洗濯ばさみを弾き飛ばす。摘まれた箇所が赤く腫れているところを見ると、それなりに痛かったのだろう。銀次の目尻にはじんわりと涙が浮かんでいた。

「ナニすんのさ、蛮ちゃーん !!!」
「いや、見事なタコぶりだったんでつい」
「もー!
 腫れちゃってちゅーできなくなっちゃうじゃんかー !!!」
「そんなにオマエ、俺とキスしてーの?」
「したいよ!」
唇を擦りながら即答する銀次の怒鳴り声に、蛮はよしと頷いた。

「よし分かった。ちっと待ってろ」
「蛮ちゃん !!!」
「腕あっためるから」
「何で殴るの !!?」
銀次は助手席の窓に張り付いた。

「なんで? オメーさっき言ったじゃねえか。
 俺とオマエのキスってのはそう言うことだ。
 よしっ、これ以上ないってくらい熱烈なのやってやるからな。
 あんまりヨすぎて、昇天しちまうかもな」
「……それって、意識なくなるまで殴るってことなの !!!?」
「一撃で脳も痺れるヤツを……」
「やめてー、バキバキ言わせないでー!」
悲痛な叫び声を張り上げる銀次は、蒼褪めて涙目にすらなっている。それを見て、蛮は内心ほくそ笑み、にやりと口角を上げる。

「んだよ。ちゅーしてやるって言ってんのに」
「ちゅーじゃないー!
 蛮ちゃんのそれ、ちゅーじゃないー!」
「お前ね、一律の愛とか求めてどうすんだよ。
 俺らは人間なんだぞ。
 愛だって個性を持たねーと」

「……………なんか、よくわかんない」

涙目の銀次がそれは恨みがましく睨んでくるのが妙に癇に障って、蛮はとりあえず軽めに銀次のこめかみをぶって気を晴らす。

「いだーーーー!
 なんで殴んのー !!!??」
「愛情表現だ」
「痛くない愛が良いー!」
「そうか。痛みを感じる間もないのが良いか」
「イヤーーーーー !!!!」
「あっそ」
蛮は吐き捨てて、あっさりと腕を引っ込める。脅し以上の意味はないと知って、銀次はぷくりと頬を膨らませた。

「ぶー……
 オレはただ、蛮ちゃんとちゅーしたいだけなのにー」

ぶちぶちと続く恨み言は無視して、当初の目的を思い出した蛮は、一度は離れかけた眠気を引き戻すため、元の通り、運転席に背をもたれて目を閉じる。するとすぐに、なおもぐちぐちと言葉にならないような(多分、言葉にすると蛮の怒りを買うからだ)独り言を漏らしていた銀次の声が、遠のき始めた………の、だが。

「ねえねえ、蛮ちゃん!
 じゃあさ、オレがちゅーしても良い?」

何となく、あーそう来たかー。と、蛮は考えてしまった。いつにも増して回転の良い頭と立ち直りの早さが、銀次の真剣さを代弁している。

普段そんぐれーカシコけりゃ、もうちょっとラクなのにな、俺が。

胸中で苦笑する。


正直な所、蛮にとってみれば、銀次のこの要求は(理解と言う意図ではなくとも)拒むに値しないものではあった。
何かの意味を持たせたがる銀次のロマンチシズムも、まあ許容しないでもない。しかし、蛮にはキスに見え隠れする感情論は重要なものではない。

たかだか、唇の接触。それが指だろうが手だろうが、頬でも同じこと。

基本的に殆どの人間は、蛮にとって拒む意味を持たない。その瞬間瞬間に気まぐれが作用するだけで、確率は高い方だろう。
だから本心では、銀次を拒絶する理由は蛮にはないし、うるさいお強請りに付き合わされる疲労に比べれば、額でも頬でもそれこそ唇でも、望む所に口付けてやるくらいは安い。

ただ、何となく銀次が、あの聞いている方が疲弊するようなお強請りをしてまで自分とキスをしたがる理由や意味を知りたくもあったし、また逆に、ただ単純に拒むべきだとの直感が働いた、と言うのもあった。

言い訳が必要だと言うなら、これこそ言い訳かも知れない。

して欲しいと強請った男を拒みながら、しても良いかと尋ねる男を拒絶しようとしないのは、この、落ち着きのない大型犬のような銀次が、どんな風にキスをするのか、と、好奇心を抱いてしまったから。と。

「蛮ちゃぁん。ねー。
 しても良い? 良いでしょー??」

考え事の間に、銀次は痺れを切らして迫ってきた。
『良し』を待ちきれないこらえ性のない大型犬そのもののような眼差しに、蛮の好奇心は一層強まった。
気付かれないように喉の奥で笑いを噛み殺しつつ、平静を保って両腕を頭の下に敷いて枕にする。

「勝手にしろ」

寝ていた耳がピーンと立った、ような気がした。

「良いのっ !!?
 蛮ちゃん、ちゅーしても良いの!」
喜色満面で身を乗り出してくる銀次に、鬱陶しげな視線を投げて寄越し、つまらなさそうに装って呟く。
「そんかわり、一回だけだ」
お預けを解かれた犬は、先ほどとは違う意味で破顔する。
「うん! オレ、がんばります !!!
 蛮ちゃんありがとー!」

抱きつきそうなほどに手放しで喜ぶ相棒を見るのは悪い気はしない。
そうして、何かの欲求が満たされていくのだろう。

「じゃあ、早速! 蛮ちゃん、いざ !!!」

どこかで覚えてきたような台詞を威勢良く吐きながら、表情を引き締めた銀次が蛮の両肩を掴む。少しばかり加減を失った力に、蛮の眉がわずかに歪んだことにも気付かないほど、銀次は必死だった。
両肩を掴んだ手に重心を移しながら、ゆっくりと上体を傾けて蛮の上に覆いかぶさっていく。逃げもしない自分相手には些か慎重すぎる気もしたが、瞬きの数を減らして見るスローモーションさながらの光景は、蛮の好奇を満たしてくれるものだった。

迫る銀次の緊張して強張った顔は真剣そのもので、蛮はただ、濃さの増したはしばみ色の瞳だけを見つめ返していた。
ゆっくりと、呼吸すら触れるまでに近づいた時……

「あの………蛮ちゃん」
「あんだ?」
距離を保ったまま、空気を触れさせないほどの囁きを返すと、銀次は少しだけ顔を浮かせて困った顔をする。

「目……閉じてくんないかナー………なんて」
「何で?」
「いや、その………ナンカ、見つめられてると、
 しづらいと言うか……恥ずかしいと言うか……」
言いながら、確かに恥ずかしそうに照れる。

「それは、協力しろってのか?
 だったらヤメだ。俺は勝手にしろっつったんだ。
 協力しろっつーんだったら、やらせねぇ」
「ええ! やだぁ !!!」
銀次は悲鳴を上げて頭を振る。

「なら我慢しろ」

一番良い所を見逃すなんて勿体無いこと誰がするかと、蛮は胸中で呟いた。銀次はしばし、「うー」だの「あー」だのと唸っていたが、そうする内に内部葛藤に折り合いがついたらしく、再び顔を引き締めた。

上体ごと身体を寄せて、さっきより緊張した面持ちで口付けを迫る。瞬きも忘れた真剣な眼差しで見つめられ、柄になく蛮も緊張を覚える。

迫る顔の鼻先が触れる寸前、緊張に耐え兼ねた銀次は思わず目を閉じてしまった。


だが、それは失敗だった。


うっかり視界を伏せた勢いは意外にも強く、思いの外ピントをずらしてしまっていた。唇が蛮の頬に気付いた時、銀次は己の失態を悟った。


「………………」

「……………………」


それも、口の端ギリギリを変な角度だと言うからまた救われない。
思い切り失敗したキス(?)は、あまりのことに硬直した銀次が離れるより早く、蛮の吹き出し笑いで呆気なく幕を閉じた。

「……ぶっ……ぶはははははは!
 しっ、信じらんねー! 外すか !!?
 あの距離で! どんだけ下手クソなんだよオメー !!!!」

張り詰めていた緊張の反動か、いつも以上にはしゃいだ声で銀次を笑う蛮は、即座に反撃を予想して身構える。だが。

「………?」

てっきり、真っ赤になるか真っ青になるかしながら、「今のナシ!」だとか、「目つぶっちゃったんだから!」だのと、泣き喚いて弁解と不当な撤回を求めるのだと思っていた銀次は、ただ呆然と焦点の合わない瞳で、蛮ではないどこかを見つめていた。
あまりの異変に笑いをひっこめた蛮が、瞬きをした直後。

はしばみ色の瞳から、ぽろりぽろりと涙が零れ落ちた。

「…… !!!!!」

突然の落涙にぎょっと息を呑んだ蛮をよそに、銀次は声もなく泣き出した。

「………ご、……ごめんね、蛮ちゃん」
「あ?」

内心、直後のからかいで傷つけたかと穏やかではなかった蛮に、鼻をすすりながら腕で顔を覆う銀次が続ける。

「蛮ちゃんが、キスさせてくれる……って、
 言ってくれたのに………
 オレ、……あんなので、ごめんなさい……」
そしてそれっきり、泣くことに専念する。

銀次を泣かせることなど、一日の内、十本の指でも間に合わないくらいある。たいていが腕力(と言うか暴力)によるもので、残りは不当な悪口だったり我侭で、強硬な理詰めである。
正直なところ、腕力に訴えないだけで、全部が暴力のようなものだ。
だがその全てには、銀次にも分かり易い善悪が存在している。
銀次にできない感情のコントロールは蛮がやってきた。少なくともいつものそれは蛮がいじめっ子というだけで、泣かされた銀次とて、一時間も経て懲りずにまた懐いてくるのだ。

けれどこれは問題が全く違う。
未だ収まらない涙を隠すように何度も拭っているのも、惨めったらしく鼻水をぐずぐず言わせるすすり泣きも。

明らかに傷付いたマジ泣きに、蛮の気分も一気に滅入った。

やり切れない気持ちを持て余した蛮は、朝から手をつけていなかった煙草に手を伸ばすが、胸ポケットには、昨日吸い尽くした空箱が虚しく入っているだけで、苛立ち紛れに舌打ちを漏らす。

「………」
銀次から半眼を逸らしたまま、空箱をぐしゃりと握りつぶす。
良心の呵責も手伝って、より鬱陶しさを感じる銀次の泣き声は収まっていた。だが、抱え込んだ膝に顔を埋めているのは、見当違いの自己嫌悪か。深く深く、頭のてっぺんから肺一杯の息を搾り吐いた蛮は、何を思ったかサングラスを胸ポケットに落とす。

「オイ!」
乱暴に声をかけ、握りつぶした煙草の空箱を銀次の頭にぶつける。
銀次はびくりと肩を震わせるが、蛮の呼びかけを無視することは出来ないのか、埋めた顔を両腕に擦り付けて泣き顔を整えた。

まだ鼻はぐずぐずいわせていた銀次が顔を浮かせて蛮を見たのと、蛮の手が僅かな隙間を縫って銀次の頬を捉えたのは、ほぼ同時だった。

「……え……?」

サングラスのない蛮の蒼紫の瞳に見つめられ、知らぬ内に銀次の顔は持ち上げられていた。何をしようとしているのか悟れぬ内に、蛮の顔が近づいて来て、被さるように視界を覆った。

蛮が瞳を閉じたかどうかは分からなかった。


少しだけ体温の低い唇が、銀次のそれに柔らかく口付けたことにも、その時は気付かなかったのだから。



頬に添えられた手が、顔の角度を微妙に調節して口付けの深さを変える。濡れた唇が押し当てたそこから、範囲を広げるように撫で行く。弾力を楽しみながら、軽く触れては音を立てて離れる。

「蛮ちゃ……」
唇が浮いた間に呆然と呟く銀次の声に、蛮は応える代わりに再び口付けた。柔らかい感触が気持ち良くて、銀次も目を閉じてしまったのだけれど、今度は銀次にも分かった。

細められた蛮の、あの魔女の瞳が閉じられたのが。

しっとりと濡れた唇によって食まれた上唇が、ちゅうっと音を立てて吸われると、駆け抜ける快感が、ぞくりと身体を震わせた。信じられないほど柔らかい唇の感触は、触れるところから、甘く、熱く、漏れる吐息の切なさに、銀次の意識が溶けていく。

そうして思う存分、銀次を堪能した蛮が、唾液で汚した唇を舌で拭ってやって口付けは終わる。


余韻に呆然とする銀次を尻目に、蛮は一つだけ息を吐いて、あっさりと運転席に戻っていく。

「蛮ちゃ……」
「やっぱ、代わりにゃなんねーな」


うわ言のような銀次の呟きには取り合わず、蛮は親指の腹で、唇に残るキスの名残の唾液を拭き取った。


「煙草買って来るわ」

そう言い残し、あっと言う間に車外に消える。

「ばっ……、ばんちゃーーーーん !!!」

後に残された銀次の切羽詰った絶叫を背中に聞きながら、胸ポケットに仕舞ったサングラスを取り出す間に、蛮は小さく舌を出した。




そんな蛮が、まだ時期が早かったと激しく後悔するのは、翌日から毎朝続くことになる、銀次のキスのお強請り攻撃が始まってからだった。

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