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引き上げ品等、放り込み倉庫
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祖父孫。短時間で出来た割に気に入ってる。








大人と言うものは。

大人と言うものは、とかく何事をも悲観しがちだ。もちろんそうでない大人もいる。だが、幼いロディの目に映る大人は空虚を抱えて、今を踏みしめるように生きているように見えた。少なくとも、子どもとはまるで違う生き物だ。
青虫と蝶のように、成長を迎えた子どもが脱皮して羽化する。そして煙草を飲み、酒を呷り、難しい言葉を操れるようになる、たった一日で、だ。

いつか来る通過儀礼の日を夢見ていたロディだったが、ちょっと最近、考え方が変わってきた。

「ローディーくーん。あっそびま、しょーっ」

これだ。

「……じいちゃん」

ロディは小さく呻いた。
考え事をしている間、手が止まっていたらしい。手についていた泡がほとんど消えてしまっている。
「ここな、ちょっと外れに良いカンジの丘があるんだよ。
 今日は風も穏やかで天気も良いしさ。
 絶好の紙飛行機エンジョイ日和だと思うのね、じいちゃん。
 オヤツ持ってさ、のんびり過ごそうよー」
いつもそうであるように、にこにこと提案する祖父の顔は、プレゼントを開ける時の子どものそれに良く似ている。洗剤の着いた手を水で洗って落とし、ロディは背後のゼペットにきちんと向き直り、はっきりと告げた。

「ダ・メ・です!」
「何でー!」

ゼペットは目を見開いて抗議の声を上げる、が、次の非難を次ぐ前に、それを見越したロディに先制される。

「仕事が終わってないからです!」
「……うっ!」

痛いところを突かれて、思わず言葉に詰まったその隙に、ロディは畳み掛ける。
すでにお説教モードに入っている。
「一週間前に受けた修理の仕事はどうしたの!
 昨日も一昨日も、紙切ったりやすりかけたり、
 重さ量ったりとかしかしてないの、
 おれちゃんと見てるんだからね!」
「ううっ……!
 で、でもでも、昨日は徹夜して……」
「難しい本の間に、漫画本挟んで隠して
 徹夜して読んでたのも知ってます!」
「きゃー!」
「何でそう、じいちゃんは遊ぶことしか考えないの!
 きちんと、やらなきゃいけないことを終わらせてから遊びなさい!
 子どもの宿題じゃないんだよ?
 出来なかったからって、拳骨喰らって終りになるようなことじゃないでしょ!
 どうしてもっと真面目に仕事出来ないの、真面目にっ!」
「だってだってぇ……」
「反論にも詰まるくらいなら言い訳しようとしない!」

もごもごと言葉を選んでいる祖父にも構わず一喝すると、とうとうゼペットは泣き出して台所から駆け走って逃げ出した。

「わーん! ロディが理詰めするよー!」
「出て行く前に仕事しなさーい!」
どうせ空涙に違いないゼペットを追いかける気にもならず、ロディは声だけで追い縋る。
「晩ご飯前には帰ってきまーす!」
「じいちゃんは今日ご飯抜きー!」

もうとっくに外に駆け出して行った祖父に聞こえたかどうか怪しいが、どうせケロっとした顔で帰ってくるに違いないのだから、ロディは溜息を吐いて洗い物を再開することにした。

あの祖父のあの性癖は昔からのものだったはずなのだが、近頃、頓に目に付くようになった気がする。
これはどう解釈したら良いかな、と。苦笑しながら、スポンジを揉んで泡を立てる。

ロディにとって、大人は子どもとは別の生き物だ。
身体の大きさも考えることも、抱えるものも全部違う。
大人は、子どもの成長の最後に訪れる羽化だ。
だが、それは違った。

大人と子どもの境界線はあまりにも曖昧で、彼が憧れていたような通過儀礼はないし、大人になるための準備もない。そもそも、大人と子ども、この線引きは客観的なものだ。一方では年齢による振り分けも存在する。だがそれは便宜上生じたもので、本当の意味での線引きには至らない。
何かの定義に当て嵌めるには、大人と子どもはある意味混ざり合っているのかも知れない。
祖父の屈託のない笑みを思い出しながら、ロディはつい吹き出してしまう。そして、祖父はどうだろうと思う。ロディの基準はどうしてもゼペットだったが、少なくとも彼は大人らしい大人とは言えない。
それでも、彼は煙草を飲み、酒を呷り、難しい言葉を操れる。そうなる間には、様々な変化があったろう。それはロディに知る由もないことでも、確実にゼペットを形成している事象には違いない。

ゼペットを分類するならば、『大人』の部類に分けられるだろう。
煙草を飲み、酒を呷り、難しい言葉を操り、自分とロディを養えるだけの経済自立を果たしている。けれどだからと言ってそれが、空虚を抱えて踏みしめるように今を生きていることとは繋がらない。
ゼペットは、遊びたい時は仕事を放ってでも遊ぶし、仕事に追われている時は好きなだけ没頭する。
彼は常に生きたいように生きている。そしてそれを隠すこともせずに誇る。
好きなことが好きなだけできるのは子どもだけの特権ではないし、我慢することは大人だけの特権ではない。

結局、

「そんなもん、なのかな……?」
呟いて、布巾で食器の水を拭う。

とかく。
大人と言うものは悲観しがちで、子どもは楽観過ぎる。
その分類でなら、自分は確実に大人の仲間入りをしているのかも知れない。
そう思い至り、ついにロディは可笑しくなって吹き出してしまった。

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