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引き上げ品等、放り込み倉庫
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何となくこれも好きだった。
(WAモバイルの「今日は何の日?」ネタ)

 






「お止めなさい、お二方とも!」
皙い寝殿に、似つかわしくない悲鳴にも似た声が響いた。
声の主は、寝殿の主でもある、西風に譬えられる、希望の守護獣、漆黒の竜王ゼファー。 (色々くどい)
いつもの安穏とした彼ではなく、すらっとした体躯の青年の姿で毅然と、だが少々困惑気味に、彼を挟んで睨み合いを続けている二人の男を交互に見遣りながら、制止のポーズで固まっている。
 
面白いことに、この二人(?)の男、実はそれぞれがある守護獣であるわけだが、ゼファーとルシエド、ステア・ロウとレイテア・ソークに見られる、いわゆる守護獣間での兄弟と言われる因縁に繋がれているわけでもないのに、その、がっしりとした鬱陶しいほどの筋肉質な体躯と良い、こんがりと香ばしさすら漂うような最早、小麦色を通り越した焦げただけの肌の色と良い、重苦しそうなワカメ頭と良い、見れば見るほど、間違い捜しに頭を悩ませるほど良く似ている。
 
そんなものだから、実は二人に挟まれているゼファーも、あえてどちらかを止めようとはしていないだけだった。
強いて違いを上げるとするならば、ゼファーの右にいる男の方が少し焦げているように見える気がする。
 
その、より焦げの男が喉を奮わせた。
「今日と言う今日こそは、決着をつけようではないか!
 大体そなたのことは、ずっと以前から気に喰わぬ気に喰わぬと思っていたのだ」
「それはこちらの台詞だ。この機会にちょうど良い。
 二度とそのような大きな顔が出来ぬように、力の差と言うものをしかと教えてくれようぞ!」
 
大音声でそんなことを耳元でがなり立てられて、ゼファーは意気を挫かれる思いだった。
それでも、争いを止めさせねばならないと言う使命が彼を奮い立たせる。
「だから、お止めなさいと言ってるのです、あなた達」
気力をしっかりと張り巡らせて、それぞれの肩に充てた両手に力を込めた。
しかし、見た目の筋肉は伊達ではない。ゼファーの柔な腕力などものともせず、二人は全く同時にぐっと身を乗り出す。
 
『いいえ、ゼファー殿! 今こそが決戦の時!』
 
などと、二人同時にハモって見せたりする。
 
希望の守護獣ゼファーと欲望の守護獣ルシエドは、原始の守護獣《泥》から同時に産まれ落ちた双子だと言われているが、彼らは姿も守護する対象も、存在の理由も意味も、思考すら全く違うものだったが、双子と言うのはもしかしてこの二人のようなことを言うものではなかろうか。
そんな取りとめのないことに思考を持っていかれる寸前に、はっと現状を思い直したゼファーだったが、すでに二体の守護獣はゼファーの身体を押し潰さん勢いで距離を縮めていた。
そもそも背丈で負けているゼファーは眼中になく、二体の守護獣は哀れな竜王の頭の上で火花を散らし始めた。
 
「お、お待ちなさいと言ってるではないですか」
とは言いつつも、爆発寸前の空気に気圧されて、ゼファーはどことなく退き気味だ。腕力にものを言わせたドッグ・ファイトが始まれば、自分には止める術が思い当たらない。何しろ、己と同じ立場の守護獣だ。
ファンタズム・ハートなんぞ使おうものなら、二体の消滅の危機は免れないだろうし、エクスプローダーなど以ての外だ。ゼファーは、その力衰えたりとは言え、守護獣の頂点に立つ貴種守護獣。広範囲、高威力の攻撃能力を備えてはいるが、はっきり言うと、加減するとか言う精密な作業はできない。
その上、今のゼファーは、物質としてもかなり質量が不足しているので、百歩譲って暴力行為に訴えて、彼が全力で殴ったところで、相手にはせいぜい微風に当たったくらいにしか感じられないだろう。
 
一触即発の空気の中、どうすべきかとおろおろと狼狽えていたゼファーは、突如伸びてきた腕に背後に引っ張られ、二体の間から救出された。
 
 
「!」
先ほどまで隣にいたはずの二体が、自分から離れた場所で距離をゼロにしてガンを飛ばしあう姿に驚き、一拍遅れて頭上を見上げると、面白そうに眉を跳ね上げたルシエドの蒼い右瞳と目が合った。
「ルシエド!」
この弟の出現を、ゼファーはこれほどまで喜んだことはなかろうと言うくらいの歓声を上げる。
「よかった、お前が来てくれて助かった。
 この二人の争いをどうか止め………」
 
「―― ファイっ!」
 
 
カカーン!
 
 
バキィ……っ!

 
「ぐぶふっ!」
「がはぁっ!」

 
 
どさっ。
 
 
 
ルシエドの宣言とともに鳴った(ように聞こえた)ゴングと同時に、二人の拳が唸り、同時に相手の顔面を抉るように捉え、同時に仰向けに倒れた。
 
「なるほど、身体能力はともに互角か」
「こ、こらー!」
うんうんと得心顔で何やらひとりごちるルシエドの手から抜け出したゼファーは、顔色を変えて弟を怒鳴りつけた。
 
「ルシエド! お前は一体何と言うことを!
 わたしは二人を止めてくれと言ったのに、
 事もあろうに煽った挙句に二人を傷つけて!」
「鼻血も出しとらんぞ。
 お、ほら見ろ。あの二体、どこまで似てるんだろうな。
 同時に起き上がったぞ」

ゼファーの非難を聞き流して、呑気に見ているルシエドの指差した先で、確かに、二体はよろよろと立ち上がった。漏れなくこれも同時なのだから、鏡でも置いているような錯覚すら覚える。

そして再びファイティングポーズ。次の挙動が始まる前にと、ゼファーは叫んだ。

「そうではなくて!
 これ以上無駄に傷つけあわないように、
 あの二体を止めなさい!」
「良いんじゃないか? 好きにやらせてやれよ。
 誰が困るわけでなし」
腕組して、高みの見物を決め込むルシエドの視線の先では、よろめきながらも、決死の眼差しで睨み合う二体。ゼファーは、泰然と構える弟の長衣を掴んで揺さぶりながら、必死な表情で訴える。

「私が困る! 止めさせなさい、今すぐに。
 さあ、ルシエド!」
「何で俺が」
 
第二ラウンド開始のゴングが鳴ったのか、二人は同時に拳を突き出す。
何か変な奇声を発するその姿は、未開発地に住む先住民のようにも見えた。今度は一撃で倒れることはなく、避けあって殴り合っての、子どもじみた戦いを始めていて、もうそろそろ、お前のかーちゃんでーべそ、くらいは聞こえてきそうではある。
「ああもう、何て姿だろうか。
 守護獣ともあろう者が……」
泣き崩れそうなゼファーの隣で、ルシエドは陽気に笑い声を上げている。
 
情けないやら哀しいやらで、しばし項垂れるしかなかったゼファーだったが、弟のあまりな無関心ぶりが災いしたか、沸々と、使命感やらルシエドに対する対抗心やらが湧き起こってきた。
「もう良い!
 わかった、やはり私が己で解決せねばならぬ問題だ!
 お前には頼らない!」
突如として奮起し、醜い殴り合いを続ける二人へと立ち向かおうとした途端、また背後に身体が引かれた。
「まあ、そう深刻に考えるな」
「ルシエド!」
振り払おうにも、今度はしっかりと腕を掴まれてルシエドに引っ張られているので、ゼファーの非力で振り解けるものではない。そうする内に、背後から巻きついた腕に首を抱き込まれた上に、完璧にホールドされてしまう。
 
「ちょっと……、こらっ、離しなさい!」
「あいつら、実は分身だったりしないかな? 動きが全く同じなんだけど。
 ステア・ロウ呼んで、光当ててみたら片方消えたりしてな。試してみるか?」
じたばた暴れるゼファーを悠々と押さえ込んで、その肩に顎を預けたルシエドの、何と呑気なことか。腕力ではどうしても勝てないのは分かってはいても、ゼファーはとにかく抵抗の意思を示す。
「もうっ、そんな無責任なこと言ってないで、離しなさい!」
「離したってお前に止められるわけないだろ。
 巻き込まれて痛い目見るのがオチだぞ」
「それでも止めねばならない!」
「ワリに合わないことはしないもんだ。
 大体な、連中にとっては好きにやらせとくのが一番だ。
 連中の諍いの原因が何であれ、
 まあどーしょーもなくつまらんことなのは分かりきってるがな、
 相手が気に喰わないってことで意見が一致してるんなら、
 後に禍根を残さないためにも、ここでしっかりと
 雌雄を決しておくべきだろうよ」
 
もっともらしいことを言っているようだが、要は丸投げだ。
 
ゼファーにとっては、暴力沙汰自体がとんでもないことなので、ルシエドの然るべき意見をそのまま受け入れる気にはならない。むうと、精一杯険しくした表情で睨むのだが、微睡みの中で溺れているような紅い瞳でのそれでは威力に欠け過ぎていて、ルシエドを黙らせるには至らない。
どちらにしろ、面白がっているルシエドが手を貸してくれることは絶対にないだろう。(ラフティーナも同じ反応を示すだろうことを知らないのはゼファーだけだが)
 
ゼファーは今度は泣きたくなって、背後へと体重を預けて項垂れる。
前方では、殴るに飽き足らず、飛び蹴りにまで発展している二人の戦い。人外(そもそも人外なのだが)の言語を操り、相手を惑わすためなのか、意味不明な動きでもって技を繰り出す。
一体どこのファルガイア俗界の影響か聞いてみたい。
 
「あああもう、お二人とも、
 もう本当にそのくらいにして下さらないとあまりにも……」
 
続きは何だか言えなかった。
だって確かにあんまりだもの。
 
『あまりにもみっともない』だなんて。
 
涙と共に呑み込んだ一言は大変に苦いものになった。
「まあお前、座れ」。声をかけられて、ゼファーはされるがままにルシエドの隣に腰を下ろすしなかった。その肩に寄り掛かっている内に、慣れないことをしたための気疲れから、うとうとと船を漕ぎ始める。

最後に見た光景は、ドロップキックを失敗して床に盛大にこける男と、避けようとして足を絡ませて背中から倒れこむ男の姿だった。




しばらく経ってから、何かに意識の中心に囁きかけられたゼファーは、ふと目を覚ました。まあ恐らく、呼びかければ応える、彼の律義さによるものだろうが。
 
「…………あれ?」
何をしていたのか、記憶がぽっかりと抜け落ちていることに違和感を感じる。
身じろぎすると、足を崩して座り込んでいる膝元に、重たい身体が倒れこんできたことに、いささか意識を取られたが、膝に転がったルシエドはそれでも起きなかった。しばらくその寝顔を眺めていたゼファーは、唐突に思い当たって飛び上がった。
その拍子に転がり落ちてルシエドの頭が床にぶつかった鈍い音が聞こえたような気がしたが、ゼファーはそれどころではない。
あの、死闘はどうなったのだろうか。ゼファーは頭を巡らせる。
 
それを見つけるのに苦労はなかった。何せ目の前に転がっていたのだから。
最初、わだかまりにしか見えなかったそれが蠢き、ゼファーは大層驚いた。目を凝らしてみると、倒れた男の上に覆いかぶさるように、傷ついた男がだらしなく寝そべっているのだ。
顔といわず身体といわず、どこもかしこも、空気で膨らませたように腫れ上がっていたが、とりあえずニンゲンを模した擬態をしているのは分かった。
 
件の守護獣だ。
 
下にいる男は、気絶しているのかぴくりとも動かない。
恐らく生命活動に異常はなかろうが、正直、こんな理由と原因で消滅するのもどうかと思われるほど情けないので、それは、それだけは、全力を以てして回避してもらいたくもある。
 
ゼファーが内部葛藤を脳内で巡らせながら呆然と眺めていることに、上に乗っている守護獣は気付いたのか、ぱんぱんに晴れ上がった頬を緩めようとして、口の中も切っているらしく、瞬間痛みに顔を歪めて、それでも勝利の余韻の濃く残る吐息を吐いて続けた。
 
 
「ゼ、ゼファー殿……我が勝利しましたぞ…………!
 ゆえに我、ここに、あり……!
 我、そばならじや、………
 そば、打ち倒せし、我こそは、
 焼きそばの守護獣、なり………!」
 
 
そして力尽きたのか、満足顔のまま、こちらもがくりと気絶する。
後に残されたゼファーは一人、困惑の表情を浮かべて呟いた。
 
 
 
「………………焼きそば?
 って、何だったんだろう……………」
 
 
 
6月25日、今日は焼きそばの日。

焼きそばは、そば粉から生まれたわけでもないのにそばを名乗る不逞な輩であるとして、そばの守護獣が焼きそばの守護獣と戦った日である。
ファイトの結果は…、
未だ焼きそばという言葉がつかわれていることからも明白であるな。

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