忍者ブログ
引き上げ品等、放り込み倉庫
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

拍手ありがとうございます。

久々に北テル文章書いてみた!

※ 新婚軸(北見・嫁、テル・旦那)

ちょっと短いやつ。本当はもっと物凄く短かったんですけど、またしても中途半端な長さになってしまって困惑。
テルに「実家」って言わせてみたかったのと、魚食べさせてやりたかった。ただそれだけの話だったんですけど、ずっと書きたかった『結婚の挨拶に際して、北見に甘い朱鷺ちゃんと対照的に厳しい善治さん』が入れられそうだったんでさらっとな。

北見側の話とか朱鷺子さんと北見辺りももうちょっと書きたいので、地味に続くかもしれません……





「フローリングやめませんか?」
朝食の焼き魚の骨を取っているのかほぐしているのかよく分からない手つきで皿を汚しているテルがまるでこちらを見ずに呟くから、北見は独り言だと勘違いした。骨の取りやすい部位を譲ってやったと言うのにこの有様だ。その反応を待つ間ですら、テルは魚の処理に集中していた。故に珍しくぽかんと口を開いた北見の間抜けな顔を見損ねた。
「何の話だ?」
「……今日の鮭っていつもより骨多いっすね」
「めんどくさいからって呑むなよ。
 大体お前、骨が刺さったら米で流し込む癖は何とかしろ」
「えー。だって昔っから言うじゃないで…」
「お前、仮にも現代医療従事者だろうが……」
テルの魚を北見がほぐしてやった方が絶対的に早いし、食器も綺麗に片付く。しかしそれをするにはこの子どもはとうが経ちすぎているし、そもそも北見はテルの母親ではない。とはいえ、蓑輪の保護者はさほど甘くないはずだったから、甥の不器用さに匙を投げてしまったのだろう。
そして話が逸らされていることにはたと気づく。本人にその気はないだろうが。
「いや待て、フローリングとは何のことだ?」
「フローリング?? フローリングって床のことでしょ?」
そこでやっと手を止めたテルは顔を上げ、これのことだとでも言いたげにほらとダイニングの床を示す。
「そうじゃない」
「ん??」
テルの集中力が正常に発揮されるのは手術台だけなのかも知れない。
皿を支える指先についた鮭の脂を舐めとったのは見逃さず、北見は小さく嘆息を漏らす。
「お前が。さっき。フローリングをやめろとか言ってたんだろうが」
「……ああ」
なんだそのやる気のない返事は。
テルとの会話の中で時折軽い苛立ちを覚えるのはいつものことなのに未だ慣れない。これからも慣れることはないだろうと北見は思っているが。
「いやほら。実家、カーペットだったから板張りって痛いんスよ」
ふ、と。北見は一度瞬きをした。美しい曲線を描く眦に、虚を突かれたようなあどけなさが乗る。
「ん……?」
テルとて北見との付き合いは短くない。一瞬の不思議な間に首を傾げて自らの言葉を反芻するが、さて今の北見の反応に値する失言は思い当たらなかった。
やがて箸を持ち直した北見は、先ほどのテルに倣うように魚の骨とりを再開する。そのついでのように「いや」と前置いて、
「お前が不注意を改めればいいだけの話だろう」
そうだ。今朝もテルは、自分で出した靴下に足を取られてしたたかに後頭部を打ち付けたのだ。その時にうっかり正直に床のへこみを心配して拗ねられた。
「普通に歩いてるだけでも痛いじゃないですか、なんていうか、骨に直接響くっていうか…」
「次の健診で厳密に骨密度を測ってやろう。お前の足がそんな繊細なわけがないからな」
「ひっでぇー!」
テルの喚き声を聞き流し、会話は終わりとばかりに魚を口に運ぶ。
蓑輪の家がカーペット張りだったのはやはりテルのためだったのだろうと北見は考えている。何しろ三歩歩けば物に当たる男だ。物がなくても律儀に一人ですっころぶ。驚くべき才能だ。
素っ気ない態度に朝食を思い出したテルが慌てて米を掻き込むのを目の端に留めて、北見は蓑輪の家を思い浮かべる。
人よりも動物の多い賑やかな家はいつもさっぱりと片付いていた。あの生命力の塊のような朱鷺子が毎日くるくると踊るように動き回っているからだろう。
明るく、気さくでいるのに他人への気遣いも欠かさないとても気持ちの良い朱鷺子は北見の義理の母だ。
結婚の挨拶に赴いた時のことをよく覚えている。
本当にこの子でいいのかと何度も念を押され、その度に律儀に肯定した北見に対して、義母は深々と頭を下げてテルを託してくれた。
予想外だったのは朱鷺子の夫の善治だった。時に朱鷺子を窘める穏やかな印象に反してその時の叔父は、北見をひたと見据えて穏やかながらもどこか厳しい眼差しで静かに問いかけてきた。
「幸せにすると約束できるかい」
もちろんしてみせると答えた。その時の北見はもう偽りなくそう答えられた。しかし善治はさらにこう問う。
「では、光介君にもそう約束できるね?」
北見のほんの一瞬の戸惑いを、善治は躊躇いと取った。
「できないのならばあの子は預けられない。君の人柄は信用するに値する。
 だけれどね、私たちはあの子の父親の分まであの子を幸せにしなければならない。あの子を幸せにしたいと言うなら、光介君ごと背負う覚悟をしなさい。
 でなければ絶対にあの子を渡さない」
たとえ朱鷺子が何を言っても、と冗談のように付け加えた善治の目だけはひどく剣呑だった。
ただその空気もほんの一瞬で、すぐに大らかな微笑みを取り戻すのだ。結局のところ善治もまたテルに甘く、彼が選んだ北見を否定することはなかった。
養父の願いは、ただひたすらに息子の幸せに他ならない。しかし母親代わりだった朱鷺子とは違い、テルには実父の記憶が強く残っている。文字通り命に代えて息子を守り通した光介に敵うわけがない、それは分かっている。テルに父親として接するのは後ろめたいと、いつだったか北見に漏らした善治。
そんな養父の葛藤と深い愛情をこの子どもは知っているのかと、北見はもどかしかったのだ。
だから、テルの口から零れ出た『実家』に安堵した。
テルにとって蓑輪の家は帰るべき場所であり、拠り所なのだと言うことだ。
「月曜は夜勤明けだったな」
「………はあ、まあ」
北見が思いをめぐらせている間に、テルは食事を済ませて食器を片付けていた。流しに漬けておくだけでいいと指示を出して、自分も手早く食事を終わらせる。洗面所に向かう背中に声をかけると、何か怒られるのかとテルは身構えた。怒られるような何をしたのかと半ば呆れつつ、
「久しぶりに蓑輪の家に顔を出そう」
「………うちに?」
「たまには親孝行をしなければな」
「うん!!」
テルは北見が蓑輪の家を気に掛けることが嬉しいようで、いつになく目を輝かせて頷いた。
「じゃあ後で連絡しとく。たまに叔父さん取材旅行行ってるから」
「いや、俺が聞いておこう」
ますますどうしたのかとテルは目を剥く。
その反応が些か不本意だったので、何やら感じ入るテルをほら遅刻するぞと追い払う。
どうしたのかなどと、ばかばかしい。婚家に顔を出すのも嫁の仕事ではないか。何より、北見もあの家族が好きだった。
温かい養父母と姻戚になれた事を一番喜んでいるのは北見だと言うことをテルは知らない。

拍手

PR
→ Comment
name title
url mail
comment                                  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
color pass
177  176  175  174  173  172  171  170  169  168  167 
忍者ブログ [PR]