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引き上げ品等、放り込み倉庫
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【女性向け】 北テル。
珍しく連続してますね。今回も何だかよく分からないけど変な話です。しかも短い。



くだらないことで喧嘩をした。

と言っても北見とは、最初からウマが合わずに衝突を繰り返していたから、今時取り立てて言うほど珍しい話ではない。
いや、あの当時は喧嘩なんて生易しいものではなかった。それこそ殺伐とした険悪な空気を周囲に振りまいては、仲間達に居心地の悪い思いをさせていた。

今は色々あって、一時期のような理不尽な怒りや恐怖はない。
北見が丸くなったことに加えて、テルの一途な恋慕が関係を劇的に変えてしまったのだ。

ただ、改善されたとは言え、もともと性格の違う頑固な二人がひとたび意見の反発を起こせば、すぐに大火事になる。そして困ったことに、この現象はむしろ以前より頻発している。
きっかけすら思い出せないほど些細な意見の食い違いが、口論から罵倒に変化し、勝てなくなったテルが逆ギレ同然に敵前逃亡して事態が長引くのが最近の流れだ。
往々にして、テルの依怙地と北見の言葉の足りなさが被害を大きくするのだが、彼ら自身は自らの非効率には気づいていないようで、今日もつまらない言い合いが発展した喧嘩は、テルの「もういい!」で有耶無耶になった。



腹の虫が収まらないままベッドに逃げて、テルは頭の中の憎たらしい北見の顔面に枕をぶつける妄想で溜飲を下げる。


テルは求めることをしない。

北見を困らせる下らない我儘を言って呆れられることはしても、本当に欲しいものは誤魔化してきた。だから時折漏らす本音の呟きには真剣に応えて欲しいのに、北見はそれすら冗談で片付けてしまう。
しかしそんな北見こそ、テルの欲しいものを理解している。
テルからの言葉を直接聞きたがった北見の態度は、まるで彼を無視しているように見えてしまうのだ。

消してテルが素直になれないのではない。

それどころか、いつも素直に伝えているのはテルなのに、北見との感情の受け止め方の違いからよく傷つく。北見の誠実さを疑ったことはない。けれど、どうしても彼の『一番』が自分以外のものであると卑屈に考えてしまうのだ。




いつの間にか寝入ってしまったテルは、寝返りが打てない窮屈さに驚いて目を覚ました。

「………!!」

ベッドサイドの弱い明かりが、北見と、彼に抱きしめられている自分を照らしている。
眠っているだけでも美しい北見の顔は、この体勢では見えない。


ずるい。


だってこんな、まるで大切なもののように胸に抱え込まれてしまうと、胸の奥に抱えていた蟠りなど霧散してしまう。
そして憎らしかったはずの相手が、途端に愛おしく思えてくるのだ。

拘束から何とか抜け出したテルは、首を伸ばして北見の頬にそっと口付ける。
ありったけの思いを込めるように、唇の感触に集中していたからか、北見が息苦しさに目覚めたことには気付かなかった。気の利かないテルが呼吸の余地を残しておかなかったから、北見は彼の寝巻きの襟を引っ張って遠ざけるしかなかった。

「きたみ……」
「窒息死させる気か」

眠いのが不服なのか、半顔で睨みつけてくる北見。だがそこには拒絶はない。

堪えきれない愛おしさに押されて、テルは再び口付ける。唇が触れる直前に「お休みのキス、してなかったから」と子どもみたいな言い訳を滑り込ませて、今度は北見が呼吸できるように角度を変えた。

ちゅっと、可愛らしい音をたてて何度も何度も繰り返すキスを、北見は大人しく受け入れている。
それどころか必死に想いを伝えようとするテルの背中を、優しい手つきで撫でては宥めてくれる。
そうして安心感で満たされたテルが唇を離すと、北見は再び彼を胸に抱え込んだ。

北見の香りに包まれて瞳を閉じると、きっとすぐに眠りに落ちてしまうだろう。だから、今言わなくては。

「……ごめん、なさい」
「ああ……」

北見もまた、胸に抱いたテルの温もりから睡魔に誘われているのか、どこかはっきりしない声で答える。
テルの瞼は、もううとうとと落ちようとしていた。

「北見……好きー……」

うわ言のように呟いて、限界を感じて瞳を閉じたテルの頭の上から、一拍置いた後に聞こえた北見の返事は、残念ながらテルの耳に届くことはなかった。

 

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