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MOTHER。「昼 寝」のちょっと後くらい。
パラダイス・エキスプレスにて、ロイド視点。
かたんことん、かたんことん。
優しいリズムで音が揺れている。車窓の外をあっと言う間に流れていく景色は変わらない砂漠ばかりで、僕はすぐに退屈と言う苦痛に苛まれてしまう。
しかも、さっきまで読んでいた本のせいで電車酔いをしてしまったから、二重の苦しみに襲われていると言うのに、目の前では向かい合わせの席で馬鹿面晒して寝こけているケンの姿。
快適でクールな旅、が売りのパラダイスエキスプレスは少しのお客と車掌が行き交うだけで、何というか物静かだ。
僕が窓の外を眺めて気を紛らわせていると言うのに、ケンは暢気にもにゃもにゃ寝言に夢中みたいだ。発車してしばらくは幼児みたいに窓に張り付いてはしゃいでいたのに、静かになったと思ったらあっと言う間に夢の中。
本当は分かってる。
列車に乗る直前、また倒れ掛けた僕を庇って一人で戦って、僕のダメージを回復させたケンが疲れてしまっていることを。
サンタクロース駅の近くでやまねこ達に襲われた。二匹にいっぺんに攻撃された時、ケンは自分の身を守るよりも僕にディフェンスのシールドをかけることを選んだ。その時、酷くひっかかれた傷をケンはマジックハーブで癒していた。いつだったか彼が、PSIを使うのは結構疲れるって言ったのを僕は覚えている。もしかすると、僕が大怪我をしても大丈夫のように、大怪我なんかしないように体力と気力を温存してるんじゃないかと思う。
ケンは特別な人間だ。いわゆる、サイキッカーという超能力者。僕も彼に出会って初めてその奇跡を見た。
お医者さんは道具を使って傷を治してくれるし、ヒーラーはマッサージをして疲れた体を癒してくれるけど、ケンは手をかざすだけで簡単にそれをやってのける。傷を治すだけじゃない、解毒してくれたり、弱い僕が攻撃を受けた時の影響を少なくしてくれたり、敵を打たれ弱くしたり、ひとの心を読んだり。彼はそんな能力を自在に使いこなしている。だけど、その力だって無限に使えるわけじゃない。彼がPSIを使うごとに、彼の疲労が溜まる。
そして僕は何もできない。
僕はケンよりずっと弱いから、ケンは僕を庇ってばかりいる。
ケン一人なら、もしかしたらもっとスムーズに旅を進められていたかもしれないのに、弱い僕を庇って、傷を癒して、その分、ケンの傷と疲れは増してる。
旅をする理由を、彼はあまり話してくれない。
希望のオカリナのこと、クイーン・マリーのこと、マジカントのことも僕は何となくしか知らない。だから僕はどうして良いのか分からないんだ。
僕がやりたかったことは、ケンが先に進むための障害を取り除くことだった。でも、もうそれも済んだ。
パラダイスエキスプレスの線路を塞でいた邪魔な大岩は、ダンカンの大工場のロケットで粉々にふっ飛ばしたんだ。
もう、ケンにとって僕が必要な場面なんてない。
ケンは特別な人間だ。サイキッカーってだけじゃない。強くて、ちょっとやそっとじゃへこたれないし、彼が弱音を吐いてるところなんてみたことがないし、何にも怯まない勇気とガッツがある。
彼の迷いのなさは、多分その強さと、生まれ持った能力が関係してるんじゃないだろうか。
その全部をひっくるめて、やっぱり彼は特別な人間なんだ。
僕が憧れてやまない強さを、ケンは全部持っている。
僕が持ってる少しの知識なんて、彼には到底及ばない。
ほんの少しの冒険でさえケンの足を引っ張った僕の役目は、あの大岩を爆破した時に終わりだと思った。
でも、違った。
彼は、留まろうとする僕の手を引いてここまで連れてきた。
ねえケン。
僕には何ができるのかな?
君の旅のために、僕が必要なことって、一体なんなんだろう。
僕は君のために、何ができるんだろう……?
「…イド………ロイド、おい。
起きろよ、ロイド」
…………………………?
あれ?
「ロイド! 起きろってば!」
「うわわっ、はい!
…………って、え?」
僕の目の前に飛び込んできたのは、ケンのしかめっ面。状況を把握する間もなく、ケンは荷物を掴んだ僕の腕を引っ張って急ぎ足で列車から出る。
僕らがホームに降り立った瞬間、ぷしゅーと言う音がして扉が閉まる。
ああ、そうだ、僕は列車の中で眠ってしまったんだ。
乗り物酔いで気分が悪くなったまま考え事をしていたから、脳が休めって命令を出したんだ。
えと、ここは……
「レインディアだよ」
僕がきょろきょろとホームを見回していたから、ケンが教えてくれた。
そうだ、サンタクロース駅から一番最初の町、レインディアだ。
「ここに、何かあるの?」
「さあ?」
旅の行方を尋ねても、ケンの答えはいつも曖昧。近づいているのか遠ざかっているのかも分からない。
もしかすると、僕が頼りないからなのかな……?
そう考えてると気分が暗くなってきて、僕の足は鈍くなった。こんなことを考える自分がすごく嫌になる。
僕は……
「オレも分かんねーよ」
「……なに?」
いつの間にか足が止まってしまってたみたいだ。俯いてしまっていた顔を上げると、振り返って僕を見ているケンとの距離はだいぶ開いていた。
だから、ケンの声が聞こえにくくなっていたのかも知れない。
「ロイドに何ができるのかなんて」
「…………え?」
いま、なんて??
「大体、今の目的だってメロディ探ししてるだけで、
他にアテがないからだっての。
メロディだって、クイーン・マリーから頼まれからだし、
旅の理由とか、なんかそんな感じなんだからな」
………………ちょっ……!
丸っきり、列車の中で悩んでいたことの答えを聞かされた気がして、僕は顔に血が上るのを感じる。
「ちょっとケン!
き、きみ、もしかしてさっきの……!」
「言っとくけど、読んだわけじゃないからな!
オレが寝てる時に、あんな近くで考え事なんかするから、流れ込んでくるんだよ!」
「そんなの、まるっきり盗み聞きじゃないか!」
「だーかーらーっ! オレだって好きで視たわけじゃないっての!
お前がぐちゃぐちゃつまんねーこと考えてるせいだろ!」
だからって、ひどい!
頭が沸騰したかと思ったら、今度は一気に青ざめる。
僕はもう何がなんだか分からなくなって、泣き出したくなった。
だってだって、だってこんなのひどすぎだよ!
「オレだって、自由に使えるちから選べるわけじゃないんだ。
テレパシーだって、ひと相手だと読めないことの方が多いし、
治せる傷とかも限られてるんだよ。
PSIって便利だと思うかも知れないけどな、
使う制限の方が結構多いんだぜ」
「…………そうなの?」
「ま。もしかしたら、
好きなようにPSI使えるやつがいるかもだけどさ」
そう言うひとには、僕の考えてることって筒抜けなのかなもしかして。
……て言うか。
「もしかして、ケン。
これって、ものすごーく、漠然とした旅なわけ?」
「漠然とか言うなよ。
目的がないわけじゃないんだから、言ったろ?
なんかそんな感じなんだよ」
……………えーっと……
もしかして、これは……
「やっぱり君ってバカなの?」
「なんだよいきなり!」
僕は、PSIってものを神聖ななにかと思っていたけども、本当はもっと融通の利かないものらしい。
確かに、ケンは選ばれた人間なのかもしれない。この旅にもPSIにも。
ケンは強い。強くて、決断力もあって、勇気もガッツもある。この旅を続けるには大切なちからもある。
だけど、決定的なバカだ。
「何か……分かったような気がする」
「ん?」
彼には、仲間が必要だ。正しい道を示す人間が。
「決めたよケン!」
「何なんだよ……」
「やっぱり僕は君と一緒に行かなくちゃ行けないんだ。
それがよく分かった!
さあ行こう! とりあえず町に行って、情報集めよう!」
そう決めたら、胸につっかえてたものが、すうっと消えていった。
「何だよいきなり張り切っちゃってさ……」
「良いから! ほらぐずぐずしない!」
前のケンの腕を掴んで歩き出すと、口を尖らせたケンはぶつぶつとぼやくんだけど、もう僕は決めたんだ。
だから、僕は君と行くよ。この先も、君が道を誤らないように。
「そう言えばケンって、なんで自分にPSIを使わないの?」
「なんでって、お前ばっかだなー。
男の傷は勲章なんだぞ」
ありがとう、君は本当にバカでした。