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引き上げ品等、放り込み倉庫
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祖父孫。久し振りにサルベージ。昔の文章は結構好きなんですが、なぜかこの話だけは見てられないくらい嫌な文体だったので、その辺りを割と差し替え。この時期、何かあったっけ??








春は  ……

   夏は    ……

      秋は    ……

          冬は  ……




ファルガイアにも季節は巡ってくる。
守護獣の加護が衰退する一方で、その変化も緩慢で怠慢ではあるが、微細であろうとも、しかしそれは訪れる。その変化を喜ぶ者も、かつてはいた。それは立ち寄った村の農夫だったり、行商人だったりするのだが、季節の移り変わりを感じるのはそんな時だった。

怠慢だろうが緩慢だろうが。

今現在においてなお、ファルガイアが『生命』として活動している証。
それは、ファルガイアにとって、意味のある事実。



「ここまで、雪降ってくるんですね」

遠目に映るのは、白い大地アークティカの切れ端。
ヒトの寄り付かなくなった地は風すらも侘しく吹き荒れ、冷たく凍る。

ロディの呟きを拾ったひとの良さそうな男は、目の前に広がる景色とは対称的に微笑みを浮かべて頷いてみせた。
「そうだねえ。
 強い風が吹けば、積もった雪もたまに吹き込んでくるよ。
 寒さよりは、風の強さの方がね、気になるくらいだから」

「じいちゃんが、まだここにいた頃は……
 村はまだなかったんですよね?」
「うんそう。
 ここに皆でいたのは、そうだね、まだずっとずっと以前の話だし。
 ただ、わたしは少し早くに独立していて、
 その頃は別の場所で仕事をしていたんだ。
 ここに来たのは、その後。皆が離れ離れになってからだから。
 この辺りは、しばらく手付かずのままで残っていたんだよ」

生活するのは、こんな施設内でも何とかなってたしね。ニコラは苦笑いでそう続けた。

「どんな、感じだったんですか?」
「うん?」

「その……
 まだ、エマさんとか、ニコラさんとかがいた頃の、ここ、は……」

いつも、真っ直ぐに人の瞳を見て話す少年の、どこか落ち着かないような様子を見て、ニコラは、ははぁと笑う。

「たまに顔を見に来ていたけれどね、それはもう騒々しかったよ。
 特にエマとゼペットじいさんてのは、本当に主動力だったからね。
 彼らが一緒にいて、騒動の起こらない日はないくらい」
「そうなんですか?」

ぱっと表情が変わる。
いつもは大人しげで控え目な瞳に、年齢相応の好奇心が覗いた。

ニコラはそれを微笑ましく思う。
ロディが祖父のことを話す時、この謙虚な少年は満面の笑顔を浮かべる。それは、彼のゼペットへの好意を率直に物語っている。祖父を慕う愛情は、そのまま、いやそれ以上に孫に返されていたはずだ。
弟子であった自分たちとは全く違う繋がり合いを羨ましく思い、同じくらい、安心する。
ずっと『家族』を欲しがっていたゼペットが迎えた、たった一人の『家族』が、この少年であることに。

「昔はね、ここじゃなくて、ミラーマの近くの一軒家にいたんだ。
 最初はエマと先生しかいなくってね。先生と一番長いのはエマなんだよ。
 それから、わたし、マシュー、トカナク、ルルド、ノーマンの順で――と、
 皆のことは知っているかな?」

視線を合わせて笑うと、ロディも微笑を浮かべて頷き返した。

「まあ、そんな風に人間が増えていくものだから、最後は狭くてね。
 それでここに引っ越したんだよ。

 ―― この、『風の海の墓標』に、ね」

殺風景な屋上からは、ケイジンクタワーまでとは行かなくとも、ファルガイアの大体のものが見渡せる。夕刻になれば、西の空に沈む夕日で世界は赤く染まるだろう。

「ここ、じいちゃんが直してますよね? ところどころ」
「やっぱり分かるよね、ちょっと特殊なところがあるから。
 先生は修復が好きだからさ、仕事の合間によくいじってたんだ。
 設計書広げたり、大掛かりなこともやってたみたいだけどね」
そう言いながら肩を竦める。

「だから、突拍子もなく何かが飛び出してきたりするかも知れないよ。
 あの人は、よくそう言う悪戯で遊んでばかりいたから」
「そうそう同じです、同じ。
 仕事してない時は、ちっちゃなオモチャとか作って遊んでましたよ」

「ああ―― じゃあ、アレは作ったかな?」
「………あれ?」

ニコラは笑った。ロディと同じ年頃の少年の様な笑顔を浮かべて、同じように浮かれた声で一言。

「紙飛行機」


ゼペット・ラグナイトは、卓越する技術を持っていながら、それを発揮する才能には恵まれていなかった。せめて情熱がもう少し、分かりやすいかたちであったなら、彼の名はもっと違うところで、違う風に聞こえていたろうに。

その彼の一番のお気に入りであり、彼の代名詞でもあるのが、いわく。
『飛空機械』 だ。

果てない夢を抱き続けるゼペットを、人は嘲った。それでも彼は、嘲われることすら自ら笑い、捨てきれない夢と情熱と両手を繋いで歩き続けた。恐らく、孫と暮らしていた時も、揺るぎはしなかったろう。
そして、その想像は的外れでないことが、ロディの眼差しで分かった。

少年は、蜜色の瞳に、いっぱいの輝きを湛えて、
「それはもう!」
と、元気一杯に答えた。

「先生がここを気に入ったのも、半分はその影響でね。
 見上げるたびに言ってたな、こんなこと。
 春は白い。
 夏は近すぎる。
 秋はまだ近い。
 冬は遠い。
 ……って、ね」

思い出を語り、その感傷に寄り添うはずの少年だったが、見下ろす彼の表情には困惑の色が見えた。

「……………?」
奇妙に思って尋ねると、ロディ少年は少し目を伏せた後、言いよどむ様子で何度か口を開く。数回繰り返した後、何だか落ち着かない顔で声を潜めた。

「それ、じいちゃんの口癖、でしたよね?」
「ん? じゃあ、ロディくんにも言ってたのかな、やっぱり」
「そう……よく、言ってたんです。
 散歩してる時とか」
「あははは」
しかし、そうして笑うニコラに対してロディは相変わらず物言いたげにしている。

「どうかしたかな?」

「……あの、さっきの、
 あれ、って、何のことだったんですか?」




『春は白いね。
 でも夏は近すぎる。
 秋はまだ近くてね。
 かと言って冬は遠いんだ……』


散歩の途中。詠うような調子で、のんびりと歩くゼペットが漏らした言葉に、何のことかと聞いたら、いつもは面白そうに笑ってはぐらかすのだけれど、いつだったか。

『ちょうどいいってのは、手が届くって言う意味じゃないんだ。
 もし、ね。ロディ。
 距離のとり方が分からなくなったら、上を見上げると良いよ。
 だってあそこは、誰も、そのやり方が分からないままなんだから、さ』

そう言って、意味の深そうな笑みを浮かべていた。
やっぱりそれには、何のことなの? と聞くと、すぐに祖父は自分の手を引いて、どうかなー? とはぐらかしたのだけれど。

……思えば、あれが答だったのだろうか。



「春の空は、白く霞んで。
 夏の空は、届きそうなほど近すぎて。
 だけど秋の空も、まだ近くて。
 冬の空は、遥かに遠くなっていく。
 前に居たところでもそうだったし、ここの屋上に上っては空を見上げて。
 先生はいつもそう言ってたね。
 あれは、空への注文かと思ってたけど……
 本当は、もっと違うことを、言っていたのかも知れないね」

「違うこと……?」

ニコラは、ふと表情を変えた。笑顔、と言えばそう見える。けれど。

それは、あの日の、あのゼペットの表情と重なる。

ロディは、ああ、と思った。

あの時の、あの人の笑顔の意味が。



廻り来る季節の中、思い出すのはいつも傍にいてくれたひと。

白い春も、近すぎる夏も、まだ近い秋も。そして遠い冬も。

全ての日々を彩っていたのは、他でもなくあの人だった。

手を引かれて道を知ったように。


どれほどの季節が巡ろうが、ロディは忘れることはない、と。
そして、それだけの季節を重ねる度に、それは輝きを増していくのだ、と。


この、かけがえのない、ファルガイアの四季を。


与えてくれた祖父を。

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