引き上げ品等、放り込み倉庫
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【女性向け】 北テル・去年ちょろっと書いたエイプリル・フールネタ。ちょうみじかい。
「今日も一日頑張ろう!」
毎朝恒例の申し送りで、気紛れ院長が気紛れに顔を出して横から口を挟んだ。北見にとっていくつかある、毎日やり過ごさなければならない事象のひとつだ。
下手なあしらいをすると、厄介なことになる。なるべく関わらないようにするのが、一番の良作であるが、実の所、安田はさして面倒な相手ではない。
彼は、相手と自分の立場と状況を認識してくれる。相手にも自分にも余裕のある時でないとちょっかいを出して来ない。ただ、無駄な余暇にさえ気を付ければ良いだけで、こちらが熱心に仕事にかまけている間は大人しくしていると言っても良いかもしれない。
だが、
「きーたみ、せんせー」
こいつだ。
背後からの声に、胸中で呪いの言葉を毒づきながら振り返る。
夜勤明けで、これから帰宅できる開放感からか、頬の緩んだしまりのないテルの顔がさらににやついていると言う光景は、激務を迎える北見にとってあまり有り難くない前置きだ。
とりあえず、北見はしっしと手で追い払った。
「もう帰っていいぞ」
「北見先生に、告白することがあります!」
できれば聞きたくないのだが、前述の通り、これは北見が毎日やり過ごさなければならない事象であり、何よりも一番厄介な面倒なのだ。特に、こんな顔をしている時に与えられるストレスは計り知れない。
渋面で決意した北見は、身体ごと向き直って先を促す。
まあ、もともとこちらの意図にはお構いなしのテルだったが、北見が自分の話を聞いてくれる態勢になってくれたのは嬉しいらしい。小さなこどもが母親にするように顔を輝かせて、
「実はオレ、女の子だったんです!」
あー、今日はそうか、エイプリル・フールか。
例外なく突飛な発言が迸るテルに慣れてしまった自分に空しさを覚えつつ、予測もしない方向から投げられた剛速球を受け止められるようになった状況を喜ぶべきなのか、北見は悩んだ。まあ少なくとも、頭の体操にはなっている気はする。
とりあえず、ここで何らかのリアクションをしてやらないと、頑なに意地になった挙句、逆恨みで何をされるか分かったものでなはい。北見は、極力(無関心を胸の内に押し留めて)平静を装い、何の感情も篭らない声で呟いた。
「そうか、知らなかったな。
なら、結婚でもするか?」
「えっ!!?」
明らかに驚きの声を上げたのはテルだった。
何事かと見れば、さっきまでの楽しそうな表情から一転、はっきりと狼狽えた様子でおろおろとこちらを見上げている。その眼差しは北見に対してなぜか熱く注がれ、言葉にならない声を漏らす口元は微かな喜びを表し、どことなく緊張した頬は紅潮していた。
あれ? 北見が、何も考えずに投げ槍に吐いた言葉を脳内で反芻していると、テルは、女子高生のような仕草でもじもじと身動ぎする。
「あ……あの、そんな、いきなり……言われても……
その、嫌なんじゃなくっ、て、心の準備って言うか………」
…………あほだ。あほだこいつ。
呆れるよりも、北見は彼の将来が色々不安になってくる。
どうも対応は間違っていなかったようだが、北見にとってもテルにとっても予想外の変化球にどう対応したら良いのか考えあぐねているうちに、先に居た堪れなくなったらしいテルが走り去っていく。
その背中をぼんやりと見送りつつ、これが後の面倒に繋がりませんように、と願わずにいられない北見だった。
追記。一週間くらいテルが(色んな意味で)しおらしかった。
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